カテゴリー
間接法のコツ

“I hope so.”を習ったその後

 

 日常生活でよく使われる英語表現の”I hope so.”。日本語学習者(特にスーパービギナーレベル)から日本語ではどう言えばいいのかよく聞かれます。たくさん日本語を話せない段階でもどうにか自分の気持ちを相手に伝えたい。コミュニケーションにとって大切な一文です。

どちらを教える?

 ”I hope so.”は日本語で直訳できない表現です。そのためいろいろな言い方ができますが、パっと思いつくのは下記の2つでしょう。

A「そうだといいです。」

B「そうだったらいいです。」

 

 さて、あなたはAとB,どちらを選びますか?実は双方の日本語の仕組みを理解できていればどちらを選んでも構いません。ただし、その後に展開される日本語学習を想定して選んでみましょう。ちなみに2つとも教えるのはあまり良くありません。新しい言い回しを覚える時は1つに絞る。たくさん教えたところで学習者が全部覚えられなければ元も子もありません。また、教師側が不安になって複数のフレーズを教えてしまうケースもあるようですが、言語というのは同じ意味でもたくさんの表現がありますので、逆に気にしない方がいいです。自信を持って1つだけ教えましょう。そして学習者(経験上、スーパービギナーレベルが多いです)が知りたくて質問した時は、論理的な文法説明は不要です。「”I hope so.”はこの日本語表現です。」と言ってそのまま覚えてもらいましょう。

丸ごと暗記した表現を有効活用する

 最初のうちは丸ごと覚えて実際に使ってくれればOK!なのですが実はこのようなケースは今後習う新しい文法の導入に役立ちます。つまり教師は何の気なしに教えている訳ではなく、文やフレーズの文型とその仕組みをわかっているので、教えた時点ですでに未来の構想ができているという訳です。特に”I hope so.”のように学習者がすぐにでも知りたい日本語表現は教えた瞬間から日常生活で使ってくれる可能性が高いので、新しい文法導入の例文にはもってこいです。なぜなら例文とは彼らが日頃使っている日本語から作るのが最適だからです。

「と」または「たら」の応用編

A 「そうだといいです。」を教えた場合

 こちらは「条件」に関する文型の例文に使えます。「条件」とは例えば「そのコンビニを曲がると学校があります。」など恒常的な状況や自然現象、習慣などをあらわす文型でそもそも希望や願望を表す文型ではありません。最初に習うときは動詞を使った例文から入ることが多いのですが、「そうだといいです。」はその応用に使えるでしょう。「そうだ」という名詞句を使った「条件」とその結果が「いいです」になります。ある意味わざと「条件」の文型を使うことによって「自然にそうなることを願う」という意味につながるのだと私は学習者に教えています。
 このように1つでも応用ネタ(?)を持っていると学習者の文型理解度が一層深まります。

B「そうだったらいいです。」を教えた場合

 こちらは「仮定」の文型の例文に使えます。例えば「雨が降ったら、試合は中止です。」など実際に起こるかわからない時に多く使われる文型です。こちらも動詞から文型導入をすることが多いですが、学習者が今まで使ってきた「そうだったらいいです。」が実はこの文型なのだということは教えるべきですし、学習者は「なるほど!これだったのか!」とちょっとしたサプライズ(?)にもなると思います。もしくは学習者自身が気づいて質問してくれることもあるでしょう。

日英の日常会話を理解する

 間接法というのは英語で日本語を説明できればいいというものではありません。日本語と英語の日常会話表現をできるだけ把握し、文型を通して言語の違いを学ぶことが大切です。

 今回の”I hope so.”のような表現は学習者の知りたい意欲次第です。日本語のクラス、レッスンでは日常会話でよく使われる表現を積極的に取り入れて、学習者の日本語で話すモチベーションをあげましょう。そして後に習う新しい文法の例文として有効的に使えることを意識しておきましょう。

英語に関する講座はこちら↓↓↓

『効果大!間接法(英語)の取り入れ方』

カテゴリー
間接法のコツ

“busy”=「忙しい」?

“busy”って日本語で何ですか?

 学習者からこのような質問が来たら、「忙しい(です)」と答えるのではないでしょうか?日本語初級レベルの基本形容詞の1つである「忙しい」という単語は日常生活において比較的頻繁に使われる忙しさを表す形容詞です。ですから、学習者にとってすぐに覚えて使いたい単語です。ところが、プライベートレッスンでは、次のような文章をよく聞くことになります。

「レストランは忙しかったです。」

教師「週末はどうでしたか?」
学習者「とても楽しかったです。」
教師「何をしましたか?」
学習者「友達とレストランでピザを食べました。」

 
 レッスンの最初のフリートークで見られる会話です。上記の会話に続き、初級レベルの学習者がよく使う日本語があります。

学習者「レストランは忙しかったです。」


 さて、この文章を聞いて、皆さんは???と思いませんか?これは英語を話す日本語学習者であれば特に多い事例です。彼らが言いたい本当の意味は、

「レストランはこんでいました。」
“The restaurant was busy.”


です。実は、日本語の「こんでいる」は英語で”busy”なのです。ここで”busy”について以下のようにまとめてみます。

“busy”=「忙しい(です)」or「こんでいます」

 
 初級レベルの教科書に登場する「忙しい」という単語を覚えた学習者はすぐに日々の忙しさを表現することができますが、それと同時に「こんでいる」という日本語も「忙しい」と言ってしまう傾向があります。それは英語に起因しているからです。

 プライベートレッスンの生徒の多くは日本で仕事をしている人やその家族の方です。そして仕事や家庭で使う言語が英語をはじめとする日本語以外の言語であることが多いです。彼らは忙しい日々の中で週に1回、1時間の日本語レッスンを受けながら日本語レベルの向上を目指しています。このような環境だとどうしても英語(又は生徒の母語)を媒介語として日本語を学習する間接法が基本になります。

他の英単語を用意する

 フリートークなどで学習者が週末の出来事について話すとき、「レストランは忙しかったです。」と言ったら、(プライベートレッスンでは本当によくあります。)正確な日本語をきちんと紹介しましょう。

「レストランはこんでいました。」

 
 さて、この時、学習者の頭の中にはまだ”busy”があります。ですが「忙しい」も「こんでいます」も”busy”だと混乱しそうなので、教師は他の英語を用意します。

“The restaurant was crowded.”


“busy”ではなく“crowded”を提示します。こうして別の英単語を用意することも間接法の大切な要素です。
まとめると以下の通りです。

(1)”I am busy.” = 「私は忙しいです。」

(2)”The restaurant is crowded.” = 「(その)レストランはこんでいます。」

 
 間接法で教えるなら日常生活でよく使われる英単語を意識しておきましょう。英単語”busy”は「忙しい」と「こんでいます」の2つの意味を持ち、日常生活でどちらも本当によく登場します。ですので教師は学習者の言いたいことをしっかりキャッチする英語力が必要になります。PJLでは間接法を主体として日本語を教えているので日本語文法について英語で説明できるのはもちろんのこと、日常英会話の理解を大切にしています。(ただし、レッスン中の教師の発言はできる限り日本語であることが前提になります。全てを英語で話しているわけではありませんよ!)このブログを読んでくださった方で間接法にご興味があれば、ぜひ日本語学習者の良き理解者となれるよう日常英会話にも意識を向けてみてくださいね!

カテゴリー
間接法のコツ

「行く必要がある。」???

日常会話の重要性

 ビギナーレベルの学習者は日常生活で使う日本語をいち早く知りたいので、「○○は日本語で何ですか?」とたくさん質問してくれます。その中でよく聞かれる文があります。

「”I need to go.”は日本語で何ですか?」

さて、この文に相当する日本語は何でしょうか?

“need”=「必要」だから、
「行く必要がある(あります)。」でいいでしょうか?

日常会話を理解しよう

 言語の基本的な意味をしっかり理解していれば、間接法はとても有効な言語学習手段ですので、この方法を取り入れて日本語を教えるのであれば、まず“I need to …”という文が英語では日常茶飯事の会話文だということを理解しておく必要があります。

 ということは、この文に相当する日本語も日常でよく使われるものが妥当ということになります。

“I need to go.” = 「行かないといけません。」

他に、

「行かないと。」
「行かなくちゃ。」

などもあります。

 これらの日本語であれば、学習者が日常で使いたい会話文としての日本語になります。実際に日本人との会話において、学習者はスピーキングとリスニング共にスムーズに理解できるようになります。

 ”I need to…”を「…必要がある(あります)。」と教えることが間違いということではありません。ビジネス日本語やライティング(記事や説明文など)では、「…必要がある」という表現もよく使われていますね。

 大事なことはいつ、どこで、だれに、どのように使うのかを考えて的確な日本語を学習者に伝えるということです。

じゃ、”I have to go.”は何て言うの?

 こちらも「行かないといけない(いけません)」ですね。
確かに”need to go”と”have to go”は英語としては違う表現です。ここで英文法を細かく分析してもいいのですが、そうではなくて日本語で日常会話をスムーズにできるかどうかが焦点となる場合は、教師は思い切ってどちらのフレーズも「行かないといけない」と教えても問題ないと思います。論理的ではなく実践的な表現力の一部として学習者に伝えることが大事です。

もしくは、日本人は日常会話で”I have to …”をよく使う言語だとも言えるでしょう。

説明や補足は必要

 以前、ある学習者が持参した教科書に載っていた日本語は
日常会話とは程遠い日本語のオンパレードでした。
間違ってはいない…のですが、日本人が普段使う会話文ではありませんでした。その教科書に、
“I need to …”   「…必要がある(あります)。」
が記載されていたのです。

どのようなときに使うのがベストか、説明は何も書いてありませんでしたので、その学習者は日常会話で使える日本語だと思っていました。

何度も言いますが、このような例文が決して間違った日本語ということではありません。ですが、教師がこれをよしとしてその学習者が日常でこの文を多用したらやはり違和感があると私は思います。

 ここで大事な考え方があります。教師は教科書の評価をするのではなく、実用的な日本語の説明や補足を学習者にきちんと伝えることです。どのような教材の例文でも絶好の説明チャンスです!ただし、盛沢山の内容説明にならないように!特にビギナーレベルの学習者は混乱してしまうのでちょっとずつ小出しに説明できればいいですね。

そうして現代の生きた日本語を使うレッスンを心がけましょう。

カテゴリー
間接法のコツ

“can”って日本語で何ですか?

早合点は禁物!

レッスン中のフリートークでは、日本語学習者から英語を交えていろいろな質問が飛び出ます。例えば、

学習者 「”can”って日本語で何ですか?」

この学習者にとっては未習事項です。皆さんはどう答えますか?

1.「できます/できる」と答える。
2.「カン(缶)」と答える。
3. 答えられない。

正解は、

3.答えられない。

です。
というか、即答はできないはず。
(もしかしたら、2.「カン(缶)」かもしれませんが…。)
学習者がどんな文を言いたいのか、わからないからです。

“can”の日本語は複数ある

教師 「例えばどんな文?」

学習者 「”I can speak Japanese.”です。」

ここでようやく教師は答えられます。

(私は)日本語を話すことができます

 又は


(私は)日本が(を)話せます

第一回目のブログでも触れていますが、
日本語で”can”に相当する(断定できる)単語はありません。
“can”は助動詞の一つで様々な文型で使われているため、すんなりと日本語で訳せるような単語ではないということです。
例えば学習者が意図している”can”が以下の文脈だったらどうでしょうか?

Can I go to a restroom?

トイレに行ってもいいですか

「できる」のような可能形ではなく許可を得るための文脈になっていますね。このように単語を含む文全体を確認した上でないと、回答することは難しいです。
単語のみでもすぐに回答できそうなのは名詞です。【apple =りんご】のように物の名称なら、単語のみを回答しても問題なさそうです。

ということで学習者から英語を使って単語や文型の質問をされた場合は、焦らず、先走らず、必ず文全体(文脈)を確認してから回答しましょう。

カテゴリー
間接法のコツ

訳し方

間接法のコツは、ズバリ意訳と直訳!

学習者「“Can I go to a restroom?”は日本語で何ですか?」

教師「『トイレに行ってもいいですか?』ですよ。」

 とりあえず教師の回答はこれでいいと思いますが、これは英語から日本語へ意訳で解釈した上での返答です。

日本語を教えるとき、英語を媒介語とするなら、
意訳と直訳でしっかり日本語の意味と文型の仕組みを伝えることが大事です。
(今回は訳に焦点を当てているので、細かい文法説明は割愛しています。)

”Can I ~?”と『~てもいいですか?』は同じ文型?

 ”Can I ~?”と『~てもいいですか?』は言っていることは同じですが、文の構造は全く違います。このように2つの異なる言語において「意味」「文の構造」が同じ視点から捉えられない場合が多くあります。
なので間接法では以下のことを意識しなければなりません。

意味が中心の訳 ➡ 意訳

文の構造が中心の訳 ➡ 直訳

「トイレに行ってもいいですか?」に相当する直訳は

Is it ok to go to a restroom?

です。


意訳と直訳をまとめると、以下のようになります。

意訳: Can I go to a restroom?

直訳: Is it ok to go to a restroom?

 今回の文は「相手に許可を得るための文型」で、これを教える際に必要な英単語は“can”ではなく“ok”です。

学習者からの質問の回答には直訳バージョンも一言付け加えておくと学習者にとって非常に有効です。

間接法を使ってきちんと学習者に日本語を伝えたいときは、教師が意訳と直訳の両方を理解することが重要ですね。